当ページでは、インターネット上の投稿に対する刑事告訴について解説します。
また、インターネット上の誹謗中傷や風評被害にお悩みの方向けに、発信者情報開示請求(投稿者の特定)を含む被害者向けサービスの全体像をお示ししたページをご用意していますので、併せてご参照ください。
インターネット上の誹謗中傷・風評被害を受けられた被害者向けサービスはこちら
目次
刑事告訴とは?
刑事告訴とは、少しシンプルに言うと、被害者の方が、警察に対し、①犯罪事実を申告して、②犯人の処罰を求める意思表示をいいます。ちなみに、①のみの場合はいわゆる被害届です。
以下、インターネット上の投稿のうち犯罪になり得る投稿、刑事告訴の方法、親告罪、刑事告訴の時間制限について説明します。
インターネット上のどのような投稿がどのような犯罪になりうるのか?
刑事告訴をするには、インターネット上の投稿(行為)が犯罪にあたらなければなりません。
削除請求や発信者情報開示請求が認められるような投稿であれば必ず犯罪にあたるというわけではないため、注意が必要です。
以下代表的な投稿について説明します。
社会的評価を低下させる投稿(名誉毀損罪・侮辱罪・信用棄損罪)
投稿によって人の社会的評価(評判や信用)を低下させる投稿については、名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)又は信用棄損罪(刑法233条)が成立し得ます。
名誉毀損罪と侮辱罪の違いは、社会的評価を低下させる事実の摘示の有無にあります。名誉毀損罪は、社会的評価を低下させる事実の摘示がなければ成立しませんが、侮辱罪は、事実の摘示がなくても成立します。
心を傷つける投稿
人の心を傷つける投稿については、人の心を傷つけるという事情のみでは、残念ながら刑法上の犯罪にはなりません。
このような投稿について侮辱と表現することもありますが、刑法上の「侮辱」は、社会的評価を低下させることと解されています。
もちろん、人の心を傷つけると同時に社会的評価を低下させる場合は、名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)又は信用棄損罪(刑法233条)が成立し得るなど、他の類型にあたる場合はあります。
公開されたくないプライベートな情報を記載した投稿
投稿によって公開されたくないプライベートな情報を記載した投稿については、「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者」が「正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らした」場合は、秘密漏示罪(134条1項)として犯罪になります。
秘密漏示罪にあたる投稿以外については、そのような投稿であることのみをもって刑法上の犯罪にはなりませんが、社会的評価を低下させる場合は、名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)又は信用棄損罪(刑法233条)が成立し得るなど、他の類型にあたる場合はあります。
営業に支障を来す投稿(業務妨害罪)
営業に支障を来す投稿については、業務妨害罪(刑法233条、234条)にあたる可能性があります。
危害予告投稿(脅迫罪)
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知する投稿については、脅迫罪(刑法222条)にあたる可能性があります。
自分の創作物(イラストなど)を勝手に使用する投稿(著作権侵害罪)
自分の創作物(イラストなど)を勝手に使用する投稿については、著作権侵害罪(著作権法119条1項)にあたる可能性があります。
自分の商標を勝手に使用する広告(商標権侵害罪)
自分の登録商標を勝手に使用する広告については、商標権侵害罪(商標法78条)にあたる可能性があります。
刑事告訴の方法
刑事告訴は、(法律上は口頭でも可能とされていますが、)告訴状を、警察に提出して行います。
刑事告訴を受けた警察は、捜査を行う義務があると解釈されています。
ただし、単に告訴状を送付して事実上受け取ってもらえばよいというわけではなく、警察の正式な受理につながるよう、警察との告訴状提出前のコミュニケーションが重要です。
また、投稿者の氏名住所を特定した後に刑事告訴をした方が、正式な受理につながりやすいようです。
告訴状は、原則として、被害者の方の住所地を管轄する警察署に提出します。
親告罪について
親告罪とは、告訴がなければ起訴できない罪をいいます。
当ページで挙げた犯罪のうち、秘密漏示罪(刑法134条1項、135条)、名誉棄損罪(刑法230条1項、232条1項)、侮辱罪(231条、232条1項)、著作権侵害罪(著作権法119条1項、123条1項。ただし同条2項にて適用除外の規定あり。)が該当します。
親告罪の場合は、告訴期間という、刑事告訴の時間制限があるので、注意が必要です(告訴期間についてはこちら)。
刑事告訴の時間制限
刑事告訴の時間制限としては、法律上のものとして公訴時効、告訴期間(親告罪のみ)が、事実上のものとしてログ保存期間があります。
公訴時効
公訴時効は、一定期間の経過によって起訴できなくなる制度です。
当ページで挙げた犯罪については、以下の期間が定められています。
名誉毀損罪、侮辱罪、信用棄損罪、業務妨害罪:3年
著作権侵害罪、商標権侵害罪:7年
公訴時効期間は、「犯罪行為が終った時」から進行します。
これについて、裁判例として、名誉棄損罪の告訴期間の判断の際、投稿がインターネット上で閲覧可能な状態であれば、被害発生の抽象的危険が維持されているとして、未だ犯罪は終了せず継続しているという判断を示したものがあります(大阪高判平16.4.22判タ1169号316頁)。
ただ、裁判例の事例でそのように判断されただけとも考えられ、一般化するには異論もあるところです。
このため、被害者側としては、大事をとって「投稿時」から公訴時効期間が進行すると考えて、準備を進めるのがよいと考えられます。
告訴期間(親告罪のみ)
親告罪の場合は、犯人を知った日から6か月を経過すると、原則として告訴ができなくなります(親告罪についてはこちら)。
「犯人を知った日」とは、犯罪行為終了後、犯人が誰であるかを知った日をいい、犯罪継続中に犯人を知ったとしても、その日から告訴期間が進行することはないと考えられています。
名誉毀損罪の告訴期間に関し、投稿がインターネット上で閲覧可能な状態であれば、被害発生の抽象的危険が維持されているとして、未だ犯罪は終了せず継続していることなどから、「犯人を知った日」から6か月を経過した後の告訴を適法と判断を示した裁判例があります(大阪高判平16.4.22判タ1169号316頁)。
しかし、裁判例の事例でそのように判断されただけとも考えられ、一般化するには異論もあるところです。
このため、被害者側としては、大事をとって「発信者情報開示請求などによって投稿者の氏名住所を知った日」から告訴期間が進行すると考えて、準備を進めるのがよいと考えられます。
アクセスプロバイダにおけるログ保存期間
サイト管理者から問題投稿のIPアドレスなどを取得した段階で刑事告訴をする場合、警察の捜査として考えられるのは、そのIPアドレスから投稿の通信を経由したアクセスプロバイダを特定し契約者情報を照会することです。
この場合、発信者情報開示請求でも同様ですが、アクセスプロバイダのログ保存期間内に間に合うかどうかがポイントとなります。
ログ保存期間は、アクセスプロバイダによって異なりますが、投稿から3か月程度が多い印象です(3カ月より長いアクセスプロバイダもあるようです)。
警察の捜査手段はこれ以外にもあり得るので、必ずしもログ保存期間が過ぎたら特定できないというわけではないとも考えられますが、被害者側としては、アクセスプロバイダのログ保存期間も念頭に置いて準備を進めるのがよいと考えられます。