弁護士 冨田 昂志
奈良弁護士会所属
この記事の執筆者:弁護士 冨田 昂志
裁判所職員として多くの裁判手続に携わる。 国内大手IT企業の社内弁護士として誹謗中傷などの権利侵害に対応し、裁判案件については100件以上を担当。 情報流通プラットフォーム対処法(プロバイダ責任制限法)の法改正対応にも関わる。
投稿者にも表現の自由があるため、どのような投稿でも削除請求・発信者情報開示請求が認められるわけではありません。
当ページでは、インターネット上の投稿について、どのような投稿であれば削除・開示が認められる可能性があるのか、概略を解説します(一つの投稿が複数に該当する場合もあります)。
目次
社会的評価を低下させる投稿(名誉毀損・名誉権侵害)
投稿によって人の社会的評価(評判や信用)を低下させる投稿については、名誉毀損(名誉権侵害)を理由に削除請求・発信者情報開示請求することを検討します。
名誉毀損を理由とする削除請求・発信者情報開示請求の要件は、やや複雑ですが、以下のとおりです。
- 対象投稿の流通により開示請求者の社会的評価が低下すること(「開示請求者に対する表現であると同定できること(同定可能性)」を含む)
- 以下のいずれかを満たすこと
- 対象投稿が公共の利害に関する事実にかかるものでないこと
- 対象投稿が、公益を図る目的でされたものではないこと
- 以下のどちらか
- (事実の摘示による名誉権侵害の場合)対象投稿の摘示事実の重要部分が真実でないこと
- (意見論評による名誉権侵害の場合)対象投稿の意見論評の前提事実の重要部分が真実でなく、かつ、意見論評が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと
プロバイダ側からの反論としては、例えば、以下のようなものが考えられます。
- 対象投稿の記載では開示請求者のことを言っているかわからない(要件1を満たさない)
- 対象投稿は個人の感想に過ぎず、社会的評価を低下させるに至らない(要件1を満たさない)
- 対象投稿の内容は、公共の利害に関する事実にかかるものであり、公益を図る目的で投稿され、かつ、摘示事実の重要部分は真実でないとはいえない(1と2.2と2.3.1の全てを満たさない)
特に、プロバイダから③の反論がなされ、投稿内容が真実でないといえるかどうか(2.3.1又は2.3.2)がポイントになることが多い印象です。
心を傷つける投稿(名誉感情侵害)
投稿によって人の心を傷つける投稿については、名誉感情侵害を理由に削除請求・発信者情報開示請求することを検討します。
どの程度ひどい投稿であれば削除が認められるかについては、判例(最三小判平22.4.13)は、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」となる投稿としています。
抽象的な基準ですが、投稿内容だけでなく、関連する他の投稿や投稿の経緯などの背景事情も考慮しつつ、類似の事例における裁判所の判断などを手掛かりに、主張を組み立てることとなります。
公開されたくないプライベートな情報を記載した投稿(プライバシー侵害)
投稿によって公開されたくないプライベートな情報を記載した投稿については、プライバシー侵害を理由に削除請求・発信者情報開示請求することを検討します。
実名を示して前科や逮捕歴を公開されている場合も、基本的にはプライバシー侵害を検討します。
どのような場合にプライバシー侵害になるかについては、判例(最二小判令4.6.24)などによれば、「公表されない法的利益」と「公表する理由」を比べて、「公表されない法的利益」の方が優越する場合と解されます。
この比較については、公表による被害や公表の必要性のほか様々な事情を考慮して主張を組み立てることとなります。
自分の画像が勝手に使用されている投稿(肖像権侵害)
自分の画像が勝手に使用されている投稿については、肖像権侵害を理由に削除請求・発信者情報開示請求することを検討します。
どのような場合に肖像権侵害になるかについては、判例(最一小判平17.11.10)や裁判例(東京地判令2.6.26)などを手掛かりにすると、肖像を使用する行為について、「社会通念上受忍の限度を超えるもの」である場合と考えられます。
抽象的な基準ですが、画像をどのように使用しているか、画像を使用する必要性など考慮しつつ、類似の事例における裁判所の判断などを手掛かりに、主張を組み立てることとなります。
自分の氏名が勝手に使用されている投稿(氏名権侵害)
自分の氏名が勝手に使用されている投稿については、氏名権侵害を理由に削除請求・発信者情報開示請求することを検討します。
どのような場合に氏名権侵害になるかについては、判例(最三小判昭63.2.16)などに照らすと、その投稿が自分のものと勘違いされるような場合は原則、勘違いされるような場合でなくても使用行為による精神的苦痛が受忍限度を超える場合が考えられます。
いずれにしても、投稿の内容だけでなく、投稿がされたアカウントの他の情報など様々な事情を考慮しつつ、類似の事例における裁判所の判断などを手掛かりに、主張を組み立てることとなります。
営業に支障を来す投稿(営業権侵害)
営業に支障を来す投稿については、営業権侵害を理由に発信者情報開示・削除請求することを検討します。
ただし、削除請求については、不正競争防止法など明文で差止請求権が認められない限り、基本的に営業権侵害は理由にならないと解されています。
このため、営業に支障を来す投稿について削除請求をする場合は、事案によっては、別の権利侵害(例えば、名誉権侵害)で構成できないか検討する必要があります。
どのような場合に営業権侵害になるかについては、営業権の範囲が明確でないため、事案ごとに検討する必要があります。刑法上の業務妨害罪や、不正競争防止法上の不正競争の要件を手掛かりに、主張を組み立てることとなります。
自分の創作物(イラストなど)を勝手に使用する投稿(著作権侵害)
自分の創作物(イラストなど)が勝手に使用されている投稿については著作権侵害を理由に削除請求・発信者情報開示請求することを検討します。
自分の商標を勝手に使用する広告(商標権侵害)
自分の商標が勝手に使用された広告については商標権侵害を理由に削除請求・発信者情報開示請求することを検討します。
サイトの利用規約やガイドラインに反する投稿
各サイトでは、多くの場合、利用規約やガイドラインによって投稿ルールを定めています。
その中では、今までご紹介したような権利侵害投稿に至らないものなども禁止されている場合があります。
このような場合は、利用規約やガイドラインに違反する投稿として、サイト管理者に通報することで、削除がされる場合があります。
ただし、この通報は、権利の行使ではなく、サイト管理者に対してルール違反の投稿の削除を促すにすぎません。
このため、通報の結果サイト管理者が任意に削除しない場合であっても、裁判上の請求に移行することはできません。
また、利用規約やガイドラインに違反することを理由とした発信者情報開示請求もできません。
削除請求・発信者情報開示請求の可否の整理
今まで挙げてきた各根拠に基づく削除請求・発信者情報開示請求の可否を整理すると以下の表のとおりとなります。
名誉毀損 | 名誉感情 | プライバシー | 肖像権 | 氏名権 | 営業権 | 著作権 | 商標権 | 規約違反 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
裁判外
削除 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 | 〇 |
裁判上
削除 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 | × |
開示 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | × |
投稿を見て詐欺に遭った場合(財産権侵害?)
投稿を見て詐欺にあった場合、詐欺の犯人の特定のために、その投稿について、発信者情報開示請求をすることが考えられます。
しかし、そのような投稿は、通常、発信者情報開示請求の対象とならないと解されています。
発信者情報開示が認められるには、権利侵害が投稿の流通自体によって生じていなければならないところ、投稿の流通と詐欺に遭って財産権が侵害されたことは、通常投稿の流通と権利侵害の間に相当因果関係があるとはいえないと解されているからです。
お気軽にお問い合わせください。
これまで見てきたとおり、削除請求や発信者情報開示請求が認められるかどうかの基準は抽象的なため、要件の理解や裁判例の傾向を踏まえた分析が必要不可欠です。
お悩みになる前にご相談いただいた方がより良い解決につながる場合があります。
是非お気軽にお問い合わせください。