当ページでは、プロバイダが削除請求を受けた場合の対応について説明します。
削除請求については、削除しなければ削除請求者から、削除すれば投稿者から、それぞれ損害賠償請求を受けるリスクがあります。
しかし、プロバイダ責任制限法上の免責規定を活用したり、サイトの利用規約を工夫したりすることで、損害賠償リスクを低減することができます。
プロバイダ向けサービスの全体像をお示ししたページもご用意していますので、併せてご参照ください。
削除請求対応の概要について
削除請求対応の概要については、以下のリンクで詳しく解説していますので、ご参照ください。
当ページでは、削除請求への備えと準備削除請求を受けた場合の具体的な対応について説明します。
削除請求への備え(利用規約の活用)
投稿の削除請求については、削除しなければ削除請求者から、削除すれば発信者から、損害賠償請求を受けるリスクがあります。
発信者による損害賠償請求の根拠は、コンテンツプロバイダのサイト利用契約違反です。
このため、サイト利用契約(多くの場合は、ユーザーの利用規約への同意によって契約が成立していると思われますので、以下、単に「利用規約」と言います。)の内容を工夫すればリスクを低減することが可能です。
利用規約の整備の意味とメリット
具体的には、利用規約に投稿に関する禁止事項を盛り込みます。
これにより、禁止事項に該当する投稿を、利用規約に則って削除することができます。
この場合は、投稿の削除が利用規約違反とはならず、当該削除による損害賠償請求は理由がないということになります。
このため、厳密に権利侵害にあたるかどうかはともかく、サイトの方針として、削除しても差し支えない(削除すべき)と考える投稿に関しては、あらかじめ、利用規約上禁止しておくことが合理的といえます。
このようなリスク低減のほか、利用規約の整備には以下のメリットがあります。
削除請求への迅速な対応が可能
利用規約において禁止事項を整備しておくと、禁止事項に該当する投稿に関して削除請求があっても、権利侵害性という難しい判断をするまでもなく、迅速に削除することができる場合があります。
サービスとして好ましくない投稿への自主的な対処が可能
特定の人種に対する差別的内容を含む投稿、スパムなど、特定個人の権利を侵害するには至らず判例上・法律上削除請求が認められない可能性がある投稿であっても、サイト運営上好ましくない投稿も考えられます。
このような投稿に対処できないと、投稿欄が荒れ、サイトの価値も低下しかねません。
このような投稿についても、あらかじめ利用規約を整備しておくことで、プロバイダの自主的な判断で柔軟に削除することが可能になります。
利用規約の整備の留意点
利用規約の整備には以上のような効果がありますが、以下のような点に留意する必要があります。
広範囲過ぎると表現の幅が狭まる
禁止事項を設けると、それだけユーザーの表現の幅が狭まり、ユーザー離れにつながる可能性もあります。
例えば、あるテーマに否定的な投稿を禁止した場合、肯定的な投稿のみが集まることになり、否定的な投稿も見たいユーザーは離れていくことになります。
サイトを運営するにあたっては、どのような投稿やユーザーを集めて、どのようなサイトにしたいのかという理念があるはずです。
禁止事項を設ける際は、このような理念に反する事態にならないか慎重に検討する必要があります。
不明確だと表現の萎縮につながり、削除判断も難しい
禁止事項を読んでもどのような投稿が禁止されているのか不明確過ぎると、ユーザーの表現萎縮につながる可能性があります。
また、プロバイダにおける削除判断にも困難が伴います。
例えば、「不謹慎な投稿は禁止します。」とのみ定めても、具体的にどのような投稿が不謹慎として禁止されているユーザーからは分かりにくく、否定的な意見全般を差し控えるユーザーがいるかもしれません。また、プロバイダにおいて対象投稿が不謹慎かどうかの判断がすぐできず、対応の迅速性が失われてしまいます。
このため、可能な限り具体的に表現したり、具体例を豊富に用意したりして、明確性を確保することが重要です(「不謹慎」の例としては、「事件や事故の被害者に対し嘲笑ったり、からかう投稿」などが考えられます。)。
どのような投稿を禁止しておくべきか
一般的に禁止しておくべき投稿(差別的投稿など)については、大手SNSや掲示板などの利用規約を参照するのが効率的です。
そのほか、サイトの目的・性質・実際の投稿内容などを考慮して、禁止投稿を定めることとなります。
(ご参考)情報流通プラットフォーム対処法について
プロバイダ責任制限法の改正法として施行予定の情報流通プラットフォーム対処法では、大規模なプラットフォームを提供する事業者に対し、以下のような義務が課せられる予定です。これまでご説明した利用規約の整備は、④にあたります。
- 削除申出の窓口の整備・公表
- 削除申出への対応体制の整備
- 削除申出に対する判断・通知
- 削除基準の策定・公表
- 削除した場合の発信者への通知
なお、対象となるプラットフォーム事業者の具体的な基準は今後総務省令で定まる予定です。
対象にならない場合であっても、世の中の流れとして、SNSや掲示版サービスでは、このような対応が求められているものと理解し、できる限り対応を検討していくことが重要と思われます。
裁判外で削除請求を受けた場合
裁判外で削除請求を受けた場合の具体的な対応例について説明します。
まずは利用規約違反かどうかを確認
利用規約違反と判断できる場合は、削除によるリスクが低いため、意見照会をするまでもなく削除するのが合理的と考えられます。
発信者に意見照会を行うかどうかを検討する
プロバイダにおいて、メールアドレスを保有しているなど、発信者と連絡が取れる場合は、発信者に対する意見照会を検討します。
意見照会可能であれば原則として意見照会をするのが合理的
削除請求を受けたプロバイダが、投稿者に対して削除に同意するかどうか意見照会をしたにもかかわらず、7日を経過しても投稿者から同意しない旨の回答がなかった場合は、削除をしても免責されます(プロバイダ責任制限法3条2項2号)。
このため、意見照会に対して不同意の回答がなければ、基本的にノーリスクで削除可能です。
また、意見照会を受けた発信者による自主削除に繋がる可能性もあります。
このため、意見照会ができるのであれば、削除請求を受けたら、原則として意見照会を行うという運用が合理的といえます。
意見照会の副作用
意見照会を受けた発信者は、プロバイダが削除請求を受けていること、投稿が真に違法かどうかはともかく、自分の投稿が原因で法的なトラブルになっていることを認識します。
発信者としては、たとえ投稿に問題がないという認識であっても(実際に違法でない投稿であったとしても)、トラブル(削除請求だけでなく発信者情報開示も含みます)になることをおそれ、以後の投稿を差し控えるようになるかもしれません。
このような点に配慮し、明らかに理由がない(権利侵害があるとはいえない)と判断できる場合など、一定の場合には意見照会をしないという運用も考えられます。
意見照会で削除不同意の回答があった場合(意見照会をしない場合)
意見照会で削除不同意の回答があった場合や、意見照会をしない(できない)場合は、削除理由(権利侵害)の有無を検討します。
名誉権侵害については、こちらをご参照ください。反論事項が見当たらないのであれば、削除理由(名誉権侵害)があるということになります。
削除理由(権利侵害)の有無の判断に迷う場合については、削除しないリスクと削除するリスクも考慮して判断することとなります。
損害賠償請求を受けるリスクについては、削除しない場合は原則として免責されますが、削除する場合は免責が例外のため、削除理由(権利侵害)の有無の判断に迷うような事例であれば、免責規定だけを見れば、削除しないという判断が合理的とも思えます。
ただ、削除しない場合は、裁判上の削除請求をされて裁判対応コストが発生する可能性を考慮する必要があります。
また、削除したことに対して発信者が、コストをかけてまで損害賠償請求をするとは考えにくく(投稿がビジネスになっているなど特殊な場合を除く)、可能性としては低いとも考えられます。
これらの事情を考慮したうえで、削除理由(権利侵害)の有無の判断に迷う場合の対応方針をあらかじめ決めておくとよいでしょう。
裁判上の削除請求を受けた場合
裁判上の削除請求には、訴訟、仮処分の2種類がありますが、実務上は、迅速性の観点から、仮処分が利用されることがほとんどです。
以下、裁判上の削除請求(削除仮処分)対応の留意点を説明し、簡単な対応フローをお示します。
反論事項(名誉権侵害を例に)
削除仮処分では、権利侵害についての反論がメインとなることがほとんどです。
削除請求の根拠になりうる権利を主張しているか(※)、対象投稿が当該権利を侵害しているといえるかなどについて反論することになります。
※例えば、営業権侵害は、削除請求の根拠にならないと解されています。
例えば、名誉権侵害を理由とする削除請求の要件のうち、名誉権侵害の要件は、少なくとも仮処分においては、以下のとおりと解されています。
- 対象投稿の流通により開示請求者の社会的評価が低下すること(「開示請求者に対する表現であると同定できること(同定可能性)」を含む)
- 以下のいずれかを満たすこと
- 対象投稿が公共の利害に関する事実にかかるものでないこと
- 対象投稿が、公益を図る目的でされたものではないこと
- 以下のどちらか
- (事実の摘示による名誉権侵害の場合)対象投稿の摘示事実の重要部分が真実でないこと
- (意見論評による名誉権侵害の場合)対象投稿の意見論評の前提事実の重要部分が真実でなく、かつ、意見論評が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものであること
プロバイダ側としては、1を満たさない場合、2.1と2.2と2.3.1の全て満たさない場合、2.1と2.2と2.3.2を全て満たさない場合のいずれかの場合であること必要なため、例えば、以下のような反論ができないか検討することとなります。
- 対象投稿の記載では開示請求者のことを言っているかわからない(要件1を満たさない)
- 対象投稿は個人の感想に過ぎず、社会的評価を低下させるに至らない(要件1を満たさない)
- 対象投稿の内容は、公共の利害に関する事実にかかるものであり、公益を図る目的で投稿され、かつ、摘示事実の重要部分は真実でないとはいえない(2.1と2.2と2.3.1の全てを満たさない)
③の反論をする場合は、投稿内容の真実性を裏付ける証拠が重要であり、客観的な証拠があれば、却下・棄却の可能性が高まります。独自調査か意見照会で入手できないか検討することも選択肢です。独自調査としては、インターネット検索、弁護士会照会(消費者被害関係の投稿であれば国民生活センターや消費生活センターが考えられます。)、文書送付嘱託、調査嘱託、文書提出命令の活用などが考えられます。
また、開示請求者側において客観的に立証可能といえる状況であれば、積極的に求釈明の申し出をすることも考えられます。
裁判所の判断以後について
審理が進むと、裁判所が判断をします。
削除仮処分命令が発令された場合、すぐに強制執行(間接強制)の申立てが可能なので、なるべく早く削除する必要があります。
削除を怠っている間に、強制執行(間接強制)が認められると、削除するまで1日10万円~の金銭を支払うことになってしまうため注意が必要です。
対応フロー
削除仮処分があった場合の一般的な対応フローは以下のとおりです。
裁判所からの郵送物の確認
訴状や申立書、証拠、その他添付資料を確認します。
裁判外の請求と異なり、裁判所の審査を経ているため、基本的には抜け漏れはないはずです。
意見照会の検討
発信者と連絡を取る手段がある場合は、意見照会を行うことを検討します。
意見照会を行い(7日以内に)不同意の回答がない場合は、削除をすることで、裁判の取下げを促すことができます。
プロバイダが削除し、または、発信者が意見照会を受けて自ら削除したら、裁判所と削除請求者に対し削除を行った旨連絡をして、削除請求者に対し仮処分の取下げを促します。
しばらくすると、請求が取り下げられるでしょう(以下の対応をする必要がありません。)。
意見照会の詳細はこちらをご参照ください。
答弁書作成・提出
反論事項にてご説明したような反論ができないか検討し、答弁書を作成し提出します。
意見照会に対し発信者から不同意の意見があれば、必要に応じ反論内容に組み込みます。
裁判所が削除判断をした場合
速やかに削除を行います。
お気軽にお問い合わせください
以上のとおり、プロバイダは削除請求に関し、投稿者と権利侵害を主張する者との間で板挟みの立場であり、両者から損害賠償請求を受けるリスクを抱えています。
しかし、免責規定等を踏まえた対応をすれば、リスクを大幅に低減することが可能です。
是非お気軽にお問い合わせください。