弁護士 冨田 昂志
奈良弁護士会所属
この記事の執筆者:弁護士 冨田 昂志
裁判所職員として多くの裁判手続に携わる。 国内大手IT企業の社内弁護士として誹謗中傷などの権利侵害に対応し、裁判案件については100件以上を担当。 情報流通プラットフォーム対処法(プロバイダ責任制限法)の法改正対応にも関わる。
当ページでは、プロバイダから発信者情報開示請求についての意見照会が届いた(開示請求をされた)り、インターネット上の投稿を理由とする慰謝料等(損害賠償)請求を受けた方向けに、「何が起こっているのか」「これからどうなるのか」を詳しく解説します。
いずれもの段階においても、迅速な対応が必要です。
当ページでは、ご自身の状況について解説しておりますが、お悩みになる前にご相談いただいた方がより良い解決につながる場合があります。
是非お気軽にお問い合わせください。
インターネット上の投稿の責任追及がされる流れ
インターネット上の投稿の責任追及については、一般的に、大きく、①投稿者の特定の段階と、②特定した投稿者への責任追及の二段階に分けられます。
意見照会は、①投稿者の特定の段階の手続きです。
慰謝料(損害賠償)請求は、②特定した投稿者への責任追及の一つの手段です。
以下、それぞれ、「何が起こっているのか」「これからどうなるのか」を詳しく解説します。
意見照会が届いた方
発信者情報開示請求にかかる意見照会がプロバイダから届いた場合、突然のことで不安を感じられると思います。
まずは、ご自身の状況を確認しましょう。
何が起こっているのか?(意見照会が届いた背景)
意見照会が送付されるに至った背景は、以下のとおりです。
- 意見照会に記載されたインターネット上の投稿により、権利を侵害されたと考える方(請求者)がいます。
- しかし、その投稿は匿名で、誰に責任追及すればいいかわかりません。
- このため、投稿先のサイト管理者であるコンテンツプロバイダ(X、Google、Metaなど)や、インターネット接続サービスを提供するアクセスプロバイダ(NTTドコモ、KDDIなど)といったプロバイダに対して、投稿者の特定のため、発信者情報開示請求をしました。
- プロバイダは、あなたをその投稿の投稿者(発信者)であると考えて、郵送やメールなどで、開示請求に応じるかどうかなどを聴く意見照会を送りました。
以下、詳細を解説します。
発信者情報開示請求権とは?
発信者情報開示請求権は、匿名投稿で権利を侵害された方が投稿者を特定して責任追及できるようにするための権利です。
匿名投稿については、投稿者が誰か分からず、投稿の責任追及ができないという問題がありました。
ただ、匿名投稿であっても、投稿に関係するプロバイダが、投稿者を特定できる情報を持っている可能性があります。
他方で、プロバイダには、投稿者(サービス利用者)のプライバシーや通信の秘密などを守る義務があります。
そこで、一定の厳格な要件を満たす場合に限り、プロバイダに対し、投稿者を特定し得る情報の開示請求ができるという発信者情報開示請求権が法律(※)上認められました。
- プロバイダ責任制限法(今後、「情報流通プラットフォーム対処法」に名称が変わる予定です。)。
発信者情報開示請求は、裁判外で請求されることも、裁判で請求されることもあります。
発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、原則として、投稿者へ意見照会を行う義務があります。
意見照会とは?
意見照会とは、発信者情報開示請求を受けたプロバイダが、投稿者(サービス利用者)に対し、開示請求に応じるかどうかの意見(応じるべきでないという意見の場合はその理由を含む)を聴く手続きで、郵送やメールなどの手段で送られます。
プロバイダには、法律上、原則として、意見照会を行う義務があります。プロバイダは、サービス管理者として、投稿者(サービス利用者)の権利利益が不当に害されないようにする一定の義務があると考えられているためです。
プロバイダは、通常、対象投稿についての事情を知らず、請求者の言い分しか把握していません。
意見照会は、発信者情報開示請求において、投稿者側の言い分や証拠を提示して、プロバイダの判断・反論材料を提供する貴重な機会です。
意見照会の回答により、発信者情報開示請求の厳格な要件を満たしていないことにつき、プロバイダや裁判所を説得できれば、投稿者として特定されないこととなります。
プロバイダとは?
代表的なプロバイダは、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダです。
コンテンツプロバイダとは、投稿先のサイト管理者です。対象投稿に関する情報(IPアドレスなど)や、対象投稿を投稿したアカウントの情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス)を持っている可能性があります。
アクセスプロバイダは、対象投稿などの通信が経由した通信網を持つプロバイダです。投稿に関するIPアドレスを使用した契約者情報(氏名、住所など)を特定できる可能性があります。
投稿していないのに意見照会が届くのはなぜか?
対象投稿について身に覚えがないにもかかわらず、意見照会が届くことがあります。
これは、投稿者の特定のルートとして、対象投稿の投稿などの通信を遡って、利用された回線の契約者を特定するというルートがあるからです。
つまり、対象投稿について身に覚えがなくても、ご家族などの第三者が、ご自身が契約している回線に接続して対象投稿の投稿など行えば、当該回線契約を締結しているアクセスプロバイダから、意見照会が届く可能性があるということです。
意見照会への対応にどのような意味があるのか?
プロバイダは、意見照会に対する回答の有無・内容を踏まえて、意見照会記載の情報を開示するかどうか判断します。
開示に同意したらどうなるのか?
意見照会に対し、開示に同意する旨回答すると、プロバイダは、ほとんどの場合、その情報を請求者に開示します。
開示に同意しなかったらどうなるのか?
意見照会に対し、開示に同意しない旨と理由を回答すると、プロバイダは、その理由を踏まえて方針を決めます。
裁判外で発信者情報開示請求がされている場合
プロバイダは、自らその要件該当性を判断します。発信者情報開示請求は、要件が厳格で、プロバイダが安易に開示判断できない制度になっています。このため、裁判外では開示されないケースが多くなると思いますが、ケースバイケースのため油断はできません。
裁判上で発信者情報開示請求がされている場合
プロバイダは、反論を組み立てて裁判所に請求棄却を求めるのが通常です。裁判所は、発信者情報開示の要件、請求者とプロバイダが提出した各証拠から、各主張を踏まえて、開示を認めるかどうか判断します。
意見照会に回答しなかったらどうなるのか?
意見照会に回答しなかった場合、プロバイダは、基本的に、開示に同意しなかった場合と同様に方針を決めることになります。
ただし、投稿と直接関係がないプロバイダからすると、投稿の事情がわからないまま方針を決めなければなりません。
裁判上で発信者情報開示請求をされている場合であれば、プロバイダが有力な反論をすることができず、開示が認められてしまう可能性が高まる場合があります。
理論上は、慰謝料請求よりも発信者情報開示請求の方が要件が厳しく阻止しやすいといえます。このため、基本的には、意見照会は放置せず、きちんと回答することが最善手となります。
意見照会の後はどうなるのか?
発信者情報開示請求については、裁判外ではプロバイダが、裁判上では裁判所が、開示をする(認める)かどうかを判断します。
その結果については、プロバイダから通知がある場合もあれば、ない場合もあります。
例えば、意見照会に回答した後、結果的に開示された場合であっても、その旨通知がされず、その後突然、慰謝料請求が来る可能性もあります。
開示されなかったらどうなるのか?
法律上、プロバイダが開示しなかった旨の通知をする制度にはなっていませんが、事実上、その旨通知される可能性はあります。
裁判外の請求で開示されなかった場合
対象投稿について、同じプロバイダに対し、裁判で改めて発信者情報開示請求がされる可能性があります。その際、改めて意見照会が来るかどうかはケースバイケースです。
裁判上の請求で開示されなかった場合
対象投稿については、基本的には、投稿者が特定されて何らかの法的措置が取られることは考えにくいです。
開示されたらどうなるのか?
法律上、一定の裁判で開示を認める判断があった場合を除き、プロバイダから結果を通知する制度にはなっていませんが、事実上、開示した旨通知される可能性があります。
請求者側としては、プロバイダから開示された情報から、投稿者を特定できれば慰謝料(損害賠償)請求などの責任追及を、特定できなければ更に発信者情報開示請求などの特定手段を検討することになります。
慰謝料(損害賠償)請求については、当ページ「慰謝料(損害賠償)請求を受けた方」及び以下をご参照ください。
意見照会にどう対応すればいいのか?
意見照会に対して、状況に応じ、回答の要否、内容を検討します。
ケースバイケースですが、基本的には、開示に同意しない旨とその理由を回答し、発信者情報開示請求の厳格な要件を満たしていないとプロバイダや裁判所を説得する方針を採ることが多くなります。
プロバイダや裁判所を説得するためには、請求者が主張する権利に応じて、適切な理由を説明し、必要に応じ資料を添付しなければなりません。
お気軽にお問い合わせください
意見照会には、通常は期限が設けられており、お悩みになる前にご相談いただいた方がより良い解決につながる場合があります。当職は、プロバイダの立場で数多くの案件に対応した経験を活かし、最善と考える方針や回答をご提案いたします。
是非お気軽にお問い合わせください。
慰謝料等(損害賠償)請求を受けた方
インターネット上の投稿について慰謝料等(損害賠償)請求の書面を受け取った場合、場合によっては突然のことで、不安を感じられると思います。
まずは、ご自身の状況を確認しましょう。
何が起こっているのか?(慰謝料等請求がされた背景)
- インターネット上の投稿により、権利を侵害されたと考える方がいます。
- その投稿は匿名でしたが、発信者情報開示請求などにより、投稿者として、あなたが特定されました。
(発信者情報開示については、「発信者情報開示請求とは?」をご参照ください。) - このため、あなたを相手方として、慰謝料等(損害賠償)請求がされました。
意見照会されずに特定されることがあるのか?
プロバイダから意見照会がされた記憶がなく、突然、慰謝料等請求を受けた方もいらっしゃると思います。
意見照会は、発信者情報開示請求を受けたプロバイダの義務です。ただし、投稿者の連絡先を把握していない場合や特別の事情がある場合は、例外的に行わないことも許されます。
プロバイダは、各社において、発信者情報の保有状況などによって、この例外にあたるかどうか整理しているものと思われます。
また、発信者情報開示請求から得られた情報から、発信者情報開示請求とは別の投稿者特定手段を用いて投稿者を特定することもあり得ます。
このため、意見照会がされることなく、投稿者が特定されるケースが存在します。
また、意見照会はメールのみによって行われることもあり、登録メールアドレスを普段確認しないために、意見照会に気付かなかった可能性もあるでしょう。
これらの場合は、突然、慰謝料等請求がされることとなります。
慰謝料等(損害賠償)請求の手段は?
慰謝料(損害賠償)請求は、裁判外でされる場合と、裁判上でされる場合があります。初めて請求を受けた段階では、裁判外の請求であることがほとんどと思われます。
ちなみに、受け取った書面の送付元が、請求者(代理人)であれば裁判外の請求であることが、裁判所であれば裁判上の請求であることがわかります。
いずれも、受け取ったことが送付主に連絡されるタイプの郵送で送られることがほとんどです。
慰謝料等請求がされた後はどうなるのか?
慰謝料等(損害賠償)請求が裁判外でされる場合と、裁判上される場合で状況が異なります。
裁判外の慰謝料等(損害賠償)請求の場合
いわゆる示談交渉となり、投稿内容などを踏まえて金額などの交渉を行うこととなります。交渉が決裂すると、裁判上の請求に移行することがあります。
裁判上の慰謝料等(損害賠償)請求の場合
公開の裁判で、裁判所から有利な判決を得るため、互いに主張立証を行います。最終的に裁判所の判決で金額などが定められることもありますが、裁判の中で和解をすることもあります。
慰謝料等請求にどう対応すればいいのか?
慰謝料等請求を放置すると、裁判で請求者の請求する金額に近い金額が認容され、強制執行を受けるおそれがあります。
このため、慰謝料等請求については、交渉ないし訴訟に応じることが必要となります。
慰謝料等(損害賠償)請求の要件、既に発信者情報開示がされていること、裁判の負担などを踏まえ、交渉や裁判対応の方針を検討します。
お気軽にお問い合わせください
慰謝料等請求には、裁判外であっても裁判であっても、通常は期限が設けられており、お悩みになる前にご相談いただいた方がより良い解決につながる場合があります。
是非お気軽にお問い合わせください。